このページの要点
- 個別の成果物、背景知的財産(以前から持つもの・汎用的に作ったもの)、残存知識(一般的な知識・経験)を分ける。
- 譲渡するなら背景知的財産を留保し、成果物に含まれる範囲で利用を許諾する。27条・28条の権利の特掲を忘れない。
- 留保+許諾型なら、許諾は提供時に効力を生じ、未払い中は通知して停止できる形にする。
- 許諾の範囲を契約の目的に合わせ、匿名化した事例の再利用と外部発信の承諾を決める。
結論:成果物の権利は「渡すもの」と「残すもの」を先に分け、渡し方を選ぶ
コンサルの成果物には、報告書、分析資料、提案書、テンプレート、マニュアル、構築した仕組みなどがあります。成果物の著作権を何も考えずに「すべて顧客に帰属する」と書くと、受託者が他の顧客にも使っている自社のテンプレートや手法まで使えなくなるおそれがあります。反対に「すべて受託者に帰属する」とだけ書くと、顧客は自社の広告や社内研修で成果物を使えるのかが分からず、契約の目的と矛盾することがあります。
事務所の書類では、成果物の権利を決める前に、次の3つを分けて考えます。
- その顧客のために個別に作ったもの(個別の成果物)。
- 受託者が以前から持っていたもの、どの顧客にも使える汎用のツール・テンプレート・手法・ノウハウ(背景知的財産)。
- 業務を通じて身に付いた一般的な知識・技能・経験(残存知識)。
そのうえで、個別の成果物を「譲渡」するのか、受託者に「留保」して顧客に利用を「許諾」するのかを選びます。秘密情報との関係は秘密保持・個人情報・生成AIのページ、提携で共同して作ったものの扱いは業務提携・共同事業のページで扱います。
3つの型:譲渡か、留保+許諾か、種類で分けるか
成果物の権利の3つの型(事務所の書類から)
譲渡+ノウハウの留保
顧客が成果物を自由に使いたいとき
- 経理・内部統制の助言の雛形:個別の依頼で作った成果物は甲に帰属させ、乙が以前から持つものと一般的な知見・テンプレートは乙に残す
- 成果物に含まれる乙の部分は、甲に無償・非独占で利用を許諾する
- 技術コンサルのプラン制:著作権は原則譲渡し、汎用の技術は乙に留保
留保+利用許諾
受託者が横展開を重視するとき
- 人事・組織開発の顧問型コンサル:著作権は乙に留保し、甲には社内利用の範囲の非独占・譲渡不可の利用権を与える
- IT活用コンサル:同じ構成で、許諾の効力の発生時期と停止の手続まで書いた
- 伴走型の経営支援:最初の案の分属型を、修正版で受託者帰属+許諾に変えた
種類で分ける
成果物の性質がばらばらのとき
- 設計分野の技術コンサル:セミナー資料・助言資料・ヒアリング資料は受託者
- 開発して納めるシステム本体と手順書は顧客
- システムの中の受託者独自のロジックやノウハウは受託者に留保
経理の助言の雛形は、受託側の依頼者が顧客との契約に使うものでした。それでも成果物は顧客に渡し、その代わりに横展開できるノウハウを確保する設計を取っています。受託者の側が「全部こちらに残す」ことにこだわるより、顧客が一番気にする成果物は渡し、手元に残すべきものを言葉で特定する方が、交渉はまとまりやすくなります。
講座や教材を組み合わせたコンサルでは、受託者の教材そのものが中心の資産になるため、扱いがさらに細かくなります。SNSマーケティングの個人コンサルでは、受託者が持つ教材の閲覧権限を顧客に付与し、契約が満了した後も私的な利用の範囲なら閲覧を続けられるとしつつ、第三者への複製・転載・譲渡・販売・再配布・公開を禁じました。面談で渡す参考資料は「成果物とはみなさず、業務の補助として提供する」もので、顧客の自己の業務の目的に限って使えると整理しています。教室運営のコンサルでは、資料の著作権(27条・28条の権利を含む)はすべて受託者に帰属し、顧客はコンサルの目的の範囲で非独占的に使えるだけで、複製、要約、SNSや動画サイトでの公開、社内での共有、顧客への流用を禁じ、終了時には削除し、求めがあれば廃棄の証明を出すとしました。
美容サロン向けの継続コンサルでは、コンテンツの権利を受託者に帰属させたうえで、顧客がコンテンツを基に作った派生物の権利まで受託者に帰属させ、禁止行為に代理受講、録画の販売、競合事業への利用まで列挙していました。受託者の資産を守る意図は分かりますが、顧客が自分の事業のために作ったものまで受託者のものになるという定めは、顧客の側から見れば事業を縛る条項です。経営マーケティングのコンサルで、顧客が独自に企画・表現したものは販売できるとした線引き(後で説明します)と比べると、派生物をどこまで取り込むかは、守りたい表現の範囲に合わせて絞るのが筋だと分かります。
渡すなら、何を守るか:背景知的財産と残存知識
大企業向けのITコンサルの基本契約では、相手方の調達条件に自社の条文を一つずつ当てはめた報告書を作り、受託側のリスクの第1位に「知的財産の帰属と共有の制限」を挙げました。横展開や他社への販売ができなくなるという理由で、報告書は「金銭のリスクより、事業の自由度のリスクの方が重い契約」と総括しています。交渉が始まった後の修正版で、何を譲り、何を守ったかは次のとおりです。
| 区分 | 中身 |
|---|---|
| 譲ったもの | 報告書や分析結果を含め、顧客のために個別に作成・加工した新しい成果物の著作権は、検収の完了で顧客に帰属させた。著作者人格権を行使しないことも付属書に加えた |
| 守ったもの(背景知的財産) | 受託者や第三者が以前から持つもの、業務の中で汎用的に使える形で開発・蓄積したツール・テンプレート・分析手法・フレームワーク・ノウハウは受託者に残した。顧客は成果物に含まれる範囲で、目的の範囲内・無償・非独占で使えるだけとし、背景知的財産そのものを単独で第三者に提供・販売・許諾することは禁じた |
| 守ったもの(残存知識) | 顧客の秘密情報を含まない一般的な知見・ノウハウ・スキル・経験は、受託者が自由に使えるとした |
条文例背景知的財産と残存知識(事務所の書式から要素を抜き出した形)
- 本業務の成果物のうち、甲のために個別に作成されたものの著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、第◯条の報酬の支払の完了をもって甲に移転する。
- 前項にかかわらず、乙が本契約の締結前から保有し、又は本業務の遂行の過程で汎用的に利用できる形で開発したツール、テンプレート、手法、フレームワーク及びノウハウ(以下「背景知的財産」という。)に関する権利は、乙に留保される。
- 乙は、甲に対し、成果物に含まれる背景知的財産を、本契約の目的の範囲内で、無償かつ非独占的に利用することを許諾する。甲は、背景知的財産を成果物から切り離して第三者に提供し、又は利用させてはならない。
- 乙が本業務を通じて得た一般的な知識、技能及び経験であって甲の秘密情報を含まないものを、他の業務に利用することは、本契約に違反しない。
書き方の要点背景知的財産の定義には、「業務の中で汎用的に使える形で開発したもの」を入れておくことが大切です。以前から持っていたものだけに限ると、この顧客の業務の中で作った汎用のテンプレートが顧客に移ってしまいます。
同じ考え方は、秘密保持契約の中でも使えます。技術開発の案件で設計の支援を受託する側の秘密保持契約を修正したときは、受託者が以前から持つ一般的な知見、ノウハウ、設計の手法、テンプレート、汎用的な技術は、この契約で制限されないと明記しました(相手方の秘密情報そのものは使えないことは維持)。秘密保持の義務が広く書かれていると、受託者の汎用の技術まで「相手方の情報に基づいて作ったもの」として縛られかねないためです。
留保+許諾型の書き方:許諾がいつ生まれ、いつ止まるか
IT活用コンサルの確定版では、成果物の著作権(著作権法27条・28条の権利を含む)を受託者に帰属・留保し、顧客には業務の目的と組織の内部での利用について、非独占・期間の定めのない利用を許諾しました。方針説明では、著作権を譲渡する契約でも、翻案権など(27条・28条の権利)は特に掲げなければ譲渡した側に留保されたものと推定される(著作権法61条2項)ことを根拠に、「留保+許諾型」を説明しています。
事務所の改訂例 利用許諾の効力の発生と停止(IT活用コンサル)
許諾の効力
なぜ顧客が受け取った成果物をすぐ使えることを示しつつ、未払いへの手当ても残すため。
契約終了後の利用
なぜ顧客にとって、終了とともに成果物が使えなくなる不安を消すため。
権利が生じない部分
なぜ権利の有無で扱いが分かれないようにするため。
人事・組織開発の顧問型コンサルでも、依頼者の原案は顧客の社内利用(使用・複製・編集・配布)を認めるだけで、個別の成果物の著作権の帰属を書いていませんでした。そのままだと「著作権も移ったはずだ」と誤解される余地があるため、最終版では著作権は受託者に留保すること、顧客には社内利用の範囲の非独占・譲渡不可の利用権を与えること、受託者は範囲内の利用について著作者人格権を行使しないこと、第三者への提供と範囲外の利用は承諾制とすることを書き、受託者の知的財産を定義の条文で定義しました。
留保+許諾型では、顧客がどの目的の範囲で使えるのかを、契約の目的に合わせて書くことが肝心です。投資計画を助言するコンサルでは、知的財産はすべて受託者に帰属させ、顧客は計画を実施する目的の範囲でだけ、非独占・譲渡不能の使用権を持ち、終了後も条件を守れば使い続けられるとしました。住宅建築の技術顧問では、書面・図面・意見書・助言の内容は顧問に帰属し、顧客は目的の範囲で非独占的に使えるとしています。アプリ開発の技術顧問では、顧客は助言の内容と成果物を自己の責任でのみ使い、顧問の承諾がなければ第三者に使わせられないとしました。いずれも、「社内利用」のような抽象的な言葉ではなく、計画の実施、設計の検討、自社のアプリの開発といった、その契約の目的を使って範囲を書いています。
許諾の範囲が、契約の目的と矛盾していないか
広告出稿の準備まで助言する経営マーケティングのコンサルでは、依頼者が持ち込んだ雛形が、個別に交付した資料の「公開」を禁止していました。しかし、この契約の目的は顧客が広告を出すことです。受託者が作ったランディングページの構成案や訴求文の案を使えば、広告として公開することになり、そのまま契約違反になってしまいます。同一性保持権(著作物を勝手に改変されない権利。著作権法20条1項)の手当てもありませんでした。事務所は資料を3つに分けて整理しました。
| 区分 | 中身 | 顧客ができること |
|---|---|---|
| 受託者の既存の資料 | 受託者が以前から持つ教材やテンプレート | 社内での利用に限る(非独占の許諾) |
| 顧客の広告物に組み込む案 | 顧客のために作った構成案、訴求文の案など | 公開・改変して使える。受託者は著作者人格権を行使しない |
| 顧客が提供した資料 | 顧客の商品情報、写真など | 顧客に帰属する |
改訂版では、個別の資料の著作権は受託者に残したまま、顧客の販売促進物に使うための複製・改変・公衆送信を自由にし、その資料を使って顧客が作った販売促進物の著作権は顧客に帰属するとしました。顧客の権利は、支払期日が来た分の支払を条件としています。さらに、相手方の要望を受けて「顧客コンテンツ」の項を加え、受託者の資料から得た知見を参考に顧客が独自に企画・表現した講座や教材は、有償・無償を問わず販売できるが、受託者の資料そのものや実質的に同じ表現を含むものは販売できないと線を引きました。
譲渡するときに入れておくこと
SNS運用・内製化のコンサルの報告書では、成果物の著作権を移す条項に「著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む」と書いていた点を、61条2項の特掲の要件を満たすよい設計と評価しました。そのうえで、改変して使うことを広く認めるなら、顧客と顧客が指定する第三者に対して著作者人格権を行使しない特約を入れるよう勧めています。デザインツールの提供素材のような第三者の素材は移転しないと定めていた点も、権利を持たない者は譲渡できない以上、必須の手当てだと評価しました。同じ報告書では、成果物のデータを渡すとしても、編集する前の撮影素材まで引き渡す義務はないと書いておく文言も勧めています。何を渡すのかを「完成したもの」に限っておかないと、作業の途中のデータや素材まで求められることがあるからです。
期間に結び付いた利用権もあります。美容サロン向けの継続コンサルでは、録画した講義の視聴権を、契約期間中に限る非独占・譲渡不能の利用権とし、契約の終了と同時に失効するとしました。譲渡でも期限のない許諾でもなく、期間の限られた利用権として位置づけておけば、契約が終わった後に視聴を続けられるかという問いに、契約書だけで答えられます。
AI活用コンサルの基本契約では、顧客に固有の部分の成果物は報酬の完済時に移転し、受託者の以前からのノウハウ、テンプレート、プロンプトの構造は受託者に残して顧客に利用を許諾する形でした。既存のテンプレートを大幅にカスタマイズした場合の境界は判断が分かれ得るため、個別契約で補うよう勧めています。キャリアコンサルの業務委託のレビューでは、成果物の定義が広く、面談の記録やテンプレートまで移転し得ること、実績として紹介する手続がないことを指摘しました。譲渡する範囲は、成果物の定義の書き方で決まります。
著作権だけでなく、特許を受ける権利などが生じ得る技術寄りのコンサルでは、共有になった場合の扱いにも注意が要ります。大企業向けのITコンサルでは、特許権などの帰属は注文書で定め、定めがなければ協議するとし、共有になった場合は、パッケージ化や第三者への販売などの自己の利用にも相手方の事前の書面の承諾が必要という相手方の条件を受けていました。事務所の当てはめの報告書は、共有の特許は、契約で別段の定めをしない限り各共有者が他の共有者の同意なく実施できるという原則(特許法73条2項)より厳しい設計だと指摘し、交渉で争点になる点の一つに挙げています。アプリ開発の技術顧問の契約でも、改訂で知的財産の条項を新設し、業務の過程で生じた権利(著作権法27条・28条の権利を含む)は発生と同時に顧客に帰属するとしつつ、契約前から受託者や第三者が持っていたものは除きました。どの種類の権利について話をしているのかを、条文の中で区別して書くことが大切です。
相談の内容や事例を、自社のノウハウとして使う
コンサルの受託者にとって、顧客ごとの相談の経験は次の顧客への助言の糧になります。技術コンサルのプラン制の契約では、相談の内容などを、個人名・法人名・案件名・金額を除いて匿名化・抽象化すれば、自社のナレッジとして再利用できるとしました。出版、講演、記事、SNSで外部に発信する場合は顧客の書面の承諾が必要で、秘密情報や成果物と実質的に同じ内容は再利用の対象外としています。
人事・組織開発の顧問型コンサルでも、顧客を識別できない形に加工すれば、受託者の提案・営業・セミナーの資料に使えるとしました。ただし、ウェブなど不特定多数に向けた媒体では顧客の承諾が必要で、公表されていない数値や賃金の情報は顧客が特定される形では使わないとしています。IT活用コンサルでは、実績として公表することを事前の承諾制とし、承諾は撤回でき、撤回された後は新しい掲載をやめ、技術的に可能な範囲で削除すると定めました。
実証実験の中で導入候補の企業から出た改善の意見を、提供者が自由に使えるようにしておく条項もあります。意見を取り込んだ改良について、相手方から共同の発明だと主張されるのを防ぐためのもので、PoC・パイロット・覚書のページで扱います。
起きがちなこと
成果物と知的財産について、事務所の書類で繰り返し見てきたこと
- 成果物の著作権をすべて顧客に移し、受託者の汎用のテンプレートや手法まで移っている。
- 顧客の社内利用を認めるだけで、著作権の帰属が書かれていない。
- 「公開禁止」の許諾範囲が、広告出稿などの契約の目的と矛盾している。
- 譲渡するのに27条・28条の権利の特掲や、著作者人格権を行使しない特約がない。
- 利用許諾が支払の完了まで生じないと読め、顧客が受け取った成果物を使えない。
- 成果物の定義が広く、面談の記録やテンプレートまで含まれている。
- 匿名化した事例を営業に使うことについて、合意がない。
よくあるご質問
コンサルの成果物を顧客に渡しても、自社のノウハウやテンプレートは使い続けられますか?
契約書で分けておけば使い続けられます。個別に作った成果物は顧客に渡し、以前から持っていたものや業務の中で汎用的に使える形で作ったツール・テンプレート・手法を「背景知的財産」として受託者に残し、成果物に含まれる範囲で顧客に利用を許諾する形にします。一般的な知識・経験を自由に使えるとする残存知識の条項もあわせて置きます。
社内利用に限る許諾と、顧客の広告での公開は、どう両立させますか?
資料を区分します。受託者の既存の教材は社内利用に限り、顧客の広告物に組み込むために作った案は公開・改変を自由にし、著作者人格権を行使しないと書きます。許諾の範囲が契約の目的と矛盾していないかを、最初に確かめることが大切です。
著作権を譲渡するとき、何を書いておけばよいですか?
「著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む」と特に掲げます。掲げなければ、翻案権などは譲渡した側に残ったものと推定されます。改変して使うなら著作者人格権を行使しない特約を入れ、第三者の素材は移転しないことも書いておきます。
顧客の事例を、匿名にして営業資料に使ってもよいですか?
契約書で合意しておくのが安全です。個人名・法人名・案件名・金額を除いて匿名化・抽象化した内容は再利用できること、ウェブなどで外部に発信する場合は承諾が必要なこと、公表されていない数値は使わないことを書いておきます。
著作権を受託者に残して利用を許諾する場合、支払が遅れたらどうなりますか?
許諾の効力を支払の完了まで生じないとすると、顧客は受け取った成果物を使えなくなり、反発を招きます。許諾は成果物の提供の時に効力を生じるとしたうえで、支払が遅れている間は通知して許諾を停止できる、という形にすると釣り合いが取れます。
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