このページの要点
- 消費者かどうかは、契約が「事業のため」かどうかの実態で決まる(消費者契約法2条1項)。確認条項では外せない。
- 事業の内容・屋号・開業時期の記載と、開業届の控えなどの提出を契約に組み込み、確認できなければ開始を留保する。
- 相手方が消費者なら、平均的な損害を超える違約金、年14.6%超の遅延損害金、一方的な自動更新などが制限される。
- 無料相談から高額の契約を勧める流れは電話勧誘販売とされるおそれ。企業向け雛形の流用は避ける。
結論:相手方が事業者か消費者かは、契約書の一文ではなく実態で決まる
経営コンサルやマーケティングのコンサルは、これから事業を始める個人や、開業の準備をしている人を相手にすることがあります。受託者は「事業者どうしの契約」のつもりで契約書を作りますが、相手方が法律上の「消費者」に当たれば、消費者契約法が適用され、返金しない条項や違約金の条項の一部が無効になることがあります。消費者契約法2条1項は、消費者を「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」と定めています。相手方が個人の場合、その契約が「事業のため」かどうかが分かれ目です。
このページでは、コンサル契約の相手方を確定するという切り口から、次の点を扱います。勧誘の方法によって適用される特定商取引法の詳しい扱いや、クーリング・オフの書面の作り方は、要点だけにとどめます。
- 「事業者として締結する」という確認条項の限界。
- 事業者であることを確かめる条項(表明保証、別紙への記載、書類の提出)。
- 相手方が消費者に当たり得る場合に、効かなくなる条項。
- 勧誘の経路と特定商取引法の要点。
- 企業向けの雛形を個人向けに流用する危険。
中途解約の精算の考え方は中途解約・更新・精算のページ、成果を保証しない条項の限界は成果を保証しない条項のページもあわせてご覧ください。
「事業者として締結する」の一文では、法律の適用を外せない
経営マーケティングのコンサルの雛形には、「甲及び乙は、いずれも事業者として本契約を締結する」という確認条項が置かれていました。事務所の報告書は、この種の確認条項は強行法規の適用を排除できないと指摘しました。消費者に当たるかどうかは実態で判断されるからです。報告書では、消費者庁の逐条解説の考え方と下級審の裁判例を整理し、開業の準備がどこまで具体化していたかが判断の分かれ目になると説明しています。
報告書が強調したのは、確認条項がかえって不利な事情になり得るという点です。相手方がまだ開業前だと知りながら「事業者として」署名させた場合、後で消費者性が争われたときに、事業者の側が実態を知っていたことを示す材料になりかねません。調達コスト削減支援のコンサルの契約でも「甲および乙は、いずれも自己の事業として本契約を締結する」と明記していますが、こちらは相手方が法人の需要家で、実態と一致しているからこそ意味を持つ一文です。
事業者であることを確かめる条項:改訂例
経営マーケティングのコンサルの改訂版では、確認条項を、事業者であることを確かめる仕組みに置き換えました。
事務所の改訂例 相手方の属性の確認(経営マーケティングコンサル)
属性の定め
なぜ宣言ではなく、事実の表明として書くことで、違反の効果を結び付けられるようにした。
確かめる材料
なぜ相手方の言葉だけでなく、書類で確かめる。
確かめられないとき
なぜ確認できない相手との契約を、そのまま進めないための出口。
記名欄
なぜ前文と記名欄の食い違いは、相手方の属性の争いの材料になる。
報告書では、事業者に限って使う書式にするなら、事業の内容・開業時期・屋号の記載欄と開業届の写しなどの提出を前提にし、確認できない相手にはこの書式を使わないこと、個人も対象にするなら別の書式を用意することを提案しました。IT活用の個人コンサルの方針説明でも、事業者を前提にした雛形であることを明記し、消費者が相手方になる場合は扱いを相談するという流れを示しています。
条文例相手方の属性の表明(事務所の改訂例の要素)
- 乙は、甲に対し、本契約の締結日において、乙が法人であること、又は個人として現に事業を営んでおり、本契約をその事業のために締結するものであることを表明し、保証する。
- 乙は、別紙1に事業の内容、名称又は屋号及び事業の開始時期を記載し、甲の求めに応じ、登記事項証明書、開業届の控えその他これを確認できる資料を提出する。
- 甲は、前項の資料により乙の事業の実態を確認することができないときは、本業務の開始を留保し、又は本契約を解除することができる。この場合の精算は、第◯条の定めによる。
書き方の要点表明保証は、相手方の属性を確定させる魔法ではありません。表明が事実と違っても、実態が消費者なら消費者契約法は適用されます。この条項の役割は、確認の手続を契約の中に組み込み、確認できない相手と契約を進めないことにあります。
相手方が消費者に当たり得るときに、効かなくなる条項
相手方が消費者に当たると、事業者間なら合意として尊重される条項でも、消費者契約法によって効力が制限されます。コンサル契約で影響を受けやすい条項を整理すると、次のようになります。
| 条項 | 関係する規定 | 影響 |
|---|---|---|
| 途中でやめても返金しない・違約金 | 消費者契約法9条1項1号 | 解除の事由・時期等の区分に応じた平均的な損害を超える部分は無効。時期の区分がない条項は不利に評価されやすい |
| 支払遅延の損害金 | 消費者契約法9条1項2号 | 年14.6%を超える部分は無効 |
| 黙っていれば更新され、高額の負担が生じる条項 | 消費者契約法10条 | 不作為を承諾とみなす条項などで、消費者の利益を一方的に害するものは無効。自動更新の作りが問題になる |
| 損害賠償の免除・制限 | 消費者契約法8条 | 事業者の責任の全部の免除や、故意・重過失による責任の一部の免除は無効 |
| 勧誘での断定的な説明 | 消費者契約法4条1項2号 | 将来の変動が不確実な事項について断定的判断を提供して誤認させれば、契約を取り消される |
美容サロン事業者向けの継続コンサルでは、「消費者契約法その他強行法規に反しない範囲で」という文言を7か所に入れていました。相手方が個人事業主でも消費者でもあり得ることを意識した保険と読めますが、この文言は、無効になる部分を明らかにするものではありません。SNSマーケティングの個人コンサルには、SNSでの信用毀損に「損害の有無にかかわらず」定額の賠償を課す条項がありましたが、相手方が消費者の場合の有効性は資料の上では検討されていませんでした。相手方が消費者になり得るなら、こうした条項は消費者契約法の枠組みで一つずつ点検する必要があります。
自動更新の条項も点検の対象です。経営マーケティングのコンサルのレビューでは、「同一条件」で12か月ごとに自動で更新し、黙っていれば高額の負担が続く構造は、消費者契約法10条が例に挙げる「消費者の不作為をもって新たな申込み又は承諾の意思表示をしたものとみなす条項」に近いと指摘しました。改訂版では自動更新をやめ、条件を書面で示したうえでの合意による更新に改めています。教室運営のコンサルの契約では、期間中は一方的に終了できないとする条項と、途中解約とキャンセル料を定める条項が並んでいて、両者の関係が整理されていませんでした。相手方が消費者に当たる場合、こうした食い違いは事業者の側に不利に読まれるおそれがあります。
勧誘の経路と特定商取引法の要点
相手方が個人の場合、勧誘の方法によっては特定商取引法も問題になります。経営マーケティングのコンサルのレビューで整理した要点は次のとおりです。
- 特定商取引法の訪問販売・通信販売・電話勧誘販売の規定は、相手方が「営業のために若しくは営業として」締結する契約には適用されません(同法26条1項1号)。ここでも、開業準備中の個人が営業のために契約したと言えるかどうかが問題になります。
- 特定商取引法の通達では、Web会議でのやり取りも「電話」に当たり得るとされています。広告で契約の内容と価格を示し、相手方が自発的に個別相談を申し込んだ場合は通信販売として整理しやすい一方で、「無料相談」で誘って高額の契約を勧めれば、電話勧誘販売とされるおそれが高くなります。
- 電話勧誘販売などで法定の書面を交付しなければ、クーリング・オフの期間が進行しません。クーリング・オフの期間が過ぎた後に契約が解除された場合でも、請求できる損害賠償等の額には上限があります(訪問販売は同法10条1項、電話勧誘販売は同法25条1項)。
- 経営コンサルは、中途解約の規律がある特定継続的役務提供(政令で定める7つの役務)には当たりません。
- 個人の相手方にクレジットカードでの分割払いを認めると、割賦販売法による抗弁の接続(販売業者に言える事由を、クレジット会社にも主張できること)が問題になります。
表題は業務提携でも、実質はオンライン商談で成約を取る成果報酬型の営業代行だった契約のレビューでも、消費者が自発的に希望した商談ではなく、営業側からの働きかけで始まる場合は電話勧誘販売に当たり得ると指摘しました。この報告書は、「法令の適合性を審査する立場にない」という当事者間の免責条項は、消費者や行政に対する義務を左右しないことも説明しています。契約書の中で責任の分担を決めても、法律上の義務を負う主体は変わりません。報告書では、誰が最初に接触したかを記録に残すこと、法定の書面を交付する実務を整えること、クーリング・オフの受付の窓口を決めておくことを、契約書の修正と並ぶ対応として挙げています。
個人の相手方と結ぶときに、ほかに見直す条項
相手方が個人の場合、属性の確認や消費者契約法の点検のほかにも、個人を相手にするコンサルに特有の条項があります。事務所の書類に現れたものを挙げます。
| 条項 | 事務所の書類での書き方 | 点検のポイント |
|---|---|---|
| 受講開始の前と後のキャンセル料 | 教室運営のコンサルで、受講開始前の解約は支払額の50%、開始後は全額をキャンセル料とした | 相手方が消費者なら、開始前の50%が平均的な損害を超えないかが問題になる |
| 録音・録画の制限 | SNSマーケティングの個人コンサルで、オンライン面談の内容を事前の同意なく録音・録画・撮影することを禁じた | 顧客が録画を希望する場合の許可の手続も書く |
| 信用を傷つける発信の禁止 | 同じ契約で、契約中も終了後も、SNSなどで事実に基づかない情報を発信することを禁じた | 定額の賠償まで課すなら、相手方が消費者の場合の有効性を検討する |
| 不適切な行為による解除 | 同じ契約で、暴言、威迫、過度な要求、業務の著しい妨害があれば催告なしに解除できるとした | 解除した場合の精算の条項と組み合わせる |
| 分割払いの期限の利益の喪失と回収費用 | 美容サロン向け継続コンサルで、1回の遅れが14日を過ぎたら期限の利益を失い、回収の費用(弁護士費用を含む)を顧客の負担とした | 相手方が消費者なら、遅延の損害金は年14.6%が上限で、それを超える負担の定めは無効になり得る |
個人向けのオンライン伴走サービスの利用規約では、医療行為、診断、治療、心理療法、専門的なカウンセリングではなく、医師や心理の専門職の支援の代わりにもならないこと、緊急の対応や危機への介入はしないこと、精神状態が著しく不安定な人などの利用を断れることを定めました。事務所のレビューでは、販売資料に心理的な変化を強く想起させる表現があるため、単に「医療行為ではない」と書くだけでは足りないと指摘しています。マインドや自己理解を扱うコンサルでは、サービスの範囲を書く条文で、資格者の業務との線引きまで書いておくことが欠かせません。
経営マーケティングのコンサルのレビューでは、急いで締結する場合の最低限の修正として、相手方を事業者に限る仕組みを入れること、別紙の空欄や作成者向けの作業指示、ドラフトの表示を取り除くこと、自動更新の条件を確定させること、資料の公開禁止から顧客の広告物を外すことの4点を挙げました。相手方が個人の場合ほど、書類の未完成の部分がそのまま争いの材料になります。
企業向けの雛形を、個人向けのコンサルに流用する危険
個人向けの講座とコンサルを組み合わせたサービスで、依頼者の原案をレビューした案件では、原案に「企業間のコンサル契約書を基礎にしたと思われる条項と、個人向けの受講契約書として必要な条項とが混在している」と指摘しました。例えば、受講者から資料の提供を受ける条項は法人どうしの契約から流用したもので、個人の受講では実務上の必要性が薄いものでした。一方で、個人向けに必要な定めが欠けていました。「自己理解を深めることに関するコンサル」という抽象的な表現では、心理分析、人生相談、カウンセリング、コーチング、ビジネスのコンサルのどれを期待されるのか分かりません。新しく作った契約書では、各回の開催日、個別面談の回数と時間、チャットの期限などを列挙し、第1条4項で、医療行為、心理療法、精神療法など、医療や心理の専門職の領域に属する行為を目的とするものではないと明記しました。
この新しい契約書では、個人を相手方とすることを前提に、ほかにもいくつかの設計を置いています。分割払いは支払の方法を分けるだけで、契約の内容は一体であること、自己都合の解約による返金はしないが、法令上の解除権は妨げないこと、提供者の責めで提供できなくなった部分だけを返金し、提供済みの部分は返金しないこと、教材や面談の内容を生成AIに入力したり、検索して回答を作る仕組みに取り込んだりすることを禁じること、賠償の上限を支払済みの受講料の総額とすることです。法令上の権利を妨げないと書いたうえで、自己都合と提供者の責めによる場合を分けて返金の範囲を決める形は、企業間の契約の「いかなる理由でも返金しない」をそのまま持ち込むより、ずっと説明がつきます。
逆の流用もあります。教室を運営する人向けのコンサルの契約は、署名欄が法人名を想定した事業者向けの作りでありながら、「受講開始前」「受講開始後」という講座型の言葉を使い、相手方が開業前の個人だった場合の検討は資料の上ではされていませんでした。書式が想定する相手方と、実際の相手方と、条文の言葉の三つがそろっているかを確かめることが、相手方を確定する作業の中心です。
ヒヤリングの問い相手方を確定するための問い
問相手方は、法人ですか、すでに事業を営んでいる個人ですか、これから始める個人ですか。
理由これから始める個人の場合、開業の準備がどこまで具体化しているかで、消費者に当たるかどうかが変わります。開業の時期、屋号、準備の状況を確かめます。
問どのような経路で契約に至りますか(広告からの申込み、無料相談、紹介、こちらからの連絡)。
理由無料相談から高額の契約を勧める流れは、電話勧誘販売とされるおそれがあります。勧誘の経路は契約書の書き方以上に結果を左右します。
問支払方法は一括ですか、分割ですか。クレジットカードの分割を認めますか。
理由個人の相手方に分割払いを認めると、割賦販売法の問題が加わります。
問販売資料や面談で、売上や成果の数字を示していますか。
理由断定的な説明は、相手方が消費者なら取消しの原因になります。契約書の成果非保証の条項では消せません。
問相手方が消費者だった場合に、返金しない条項や違約金の条項をどう扱いますか。
理由事業者に限る書式にするのか、個人用の別の書式を用意するのかを、最初に決めます。
起きがちなこと
相手方の属性について、事務所の書類で繰り返し見てきたこと
- 開業前の個人と、事業者どうしの契約書で契約している。
- 「事業者として締結する」の一文で、消費者契約法も特定商取引法も外せると考えている。
- 前文、記名欄、条文の言葉が想定する相手方がばらばら。
- 「強行法規に反しない範囲で」を何か所にも入れて、どの条項が無効になるかの点検をしていない。
- 無料相談から高額の契約に進む流れなのに、勧誘の経路の検討がない。
- 企業向けの雛形を個人向けに流用し、個人向けに必要なサービスの特定や線引きが欠けている。
個人の相手方との秘密保持の条項の書き方は秘密保持契約書(NDA)のページでも扱っています。
よくあるご質問
開業前の個人とコンサル契約を結ぶときの注意点は?
開業の準備がどこまで具体化しているかによって、相手方が消費者に当たることがあります。事業の内容、屋号、開業の時期を書いてもらい、開業届の控えなどで確かめる手続を契約に組み込み、確かめられない場合は開始を留保できるようにしておきます。消費者に当たり得るなら、返金しない条項や違約金の条項を消費者契約法の枠組みで見直します。
「当社と貴殿は事業者として契約する」と書けば、消費者契約法は適用されませんか?
適用を外すことはできません。消費者に当たるかどうかは実態で判断されます。開業前と知りながら事業者として署名させると、かえって事業者の側が実態を知っていたことを示す材料になりかねません。
企業向けのコンサル契約書の雛形を、個人向けに使ってもよいですか?
そのまま使うのは危険です。法人どうしの契約に特有の条項が残る一方で、個人向けに必要なサービス内容の特定や、医療行為・心理療法など専門職の領域との線引きが欠けることがあります。相手方の属性に合わせて、書式を分けるのが確実です。
Web会議で勧誘して契約した場合も、特定商取引法の対象になりますか?
Web会議でのやり取りも電話に当たり得るとされています。相手方が自発的に申し込んだのではなく、こちらからの働きかけで勧誘が始まった場合は、電話勧誘販売とされるおそれがあります。相手方が営業のために契約する場合は適用されませんが、開業前の個人ではその判断が問題になります。
経営コンサルにも、クーリング・オフや中途解約のルールはありますか?
経営コンサルは、中途解約のルールがある特定継続的役務提供の7つの役務には当たりません。ただし、訪問販売や電話勧誘販売に当たる方法で契約した場合は、クーリング・オフや解除時の損害賠償等の上限の規定が問題になります。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、業務の内容や当事者の属性、契約に至った経緯によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたコンサルティング契約書、顧問契約書、業務委託契約書、成果報酬・収益分配型の契約書、業務提携・共同事業の契約書、秘密保持契約書、PoCの覚書、各種の覚書、レビュー報告書、ヒヤリングシートなどを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 個人情報保護委員会 / 公正取引委員会 / 経済産業省